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2007年10月23日 (火)

知的実践としての開発援助

Titekijissenn知的実践としての開発援助-アジェンダの興亡を超えて(元田結花著、東京大学出版会)を読みました。

人間の安全保障、ソーシャルキャピタル、参加型開発、キャパビル・・・、開発援助ではなぜ毎年のように新たなアジェンダが生まれ、それにドナーも開発途上国も振り回されるのか。

それは開発援助を実施する側がよりより開発援助を行おうとするゆえだが、そもそも開発援助というものに内在的な欠陥要因があり、その限界を抱えているがために新たなアジェンダを設定してもうまくいかないのだ、ということを分析した本です。

その内在的欠陥とはなにか。それは次の4つです。

ドナーの優位性:開発援助は、ドナーは知識・資本の両面を含めた意味で問題解決能力があるのに対して、被援助国にはそのような能力はない、という前提にたっており、(実際はどうかにかかわらず)ドナーが被援助国よりも優れていると扱われる。

マネジメントの要請:ドナーは、ロジカル・フレームワークに見られるようにコード化、数値化、単純化を通じてドナーが扱いやすいよう形に加工された情報に基づいて、モデルに従って開発援助を計画・実施・評価する。その結果、現地の実情が反映されない。

責任の所在の不明確性:ドナーは納税者に対しては高い説明責任を求められる一方、ドナーが支援する開発事業の受益者に対する説明責任は弱い。ドナーの納税者の要求が現場のニーズとあわない場合がある。

越境活動:ドナーの優位性、マネジメントの要請、責任の所在の不明確性とあいまって、開発援助が越境活動であるがゆえに、途上国の開発事業がドナーの認識枠組みや行動様式から影響をうけ、その結果、援助の対象活動において「被援助国にとっての開発とは何か」という視点が弱まり、ドナーの利害関心が反映される。

開発援助を機能させるためには、これらの要因を認識しなければ、結局ニーズにあわない援助をしてしまう、ということなのですが、確かに、どのポイントも開発援助に携わっている人であれば思い当たるものだと思います。

これらの点に対処しようとするには、大きなコストがかかります。外部者が途上国のニーズを途上国の政治・経済・社会状況の細部にいたる影響まで考え、ステークホルダーとの調整を経て受益者へのアカウンタビリティを果たしつつ支援を行うことは大変なことです。

ではどうすればよいのか。長くなりますが、結論部分から著者の見解を引用します。

開発援助の内在的な限界に無自覚なまま、政府の主張に沿うような政策を行うならば、被援助国の実情から乖離した援助活動の展開という、開発援助の歴史の中で繰り返されてきた慣行を踏襲することになろう。これを回避するための方策として、実施機関側の、現地を重視する形での援助活動を一層推進することも考えられる。しかしそのためには、実施機関の再編、統合がどうなるのかという問題や、主務官庁との間の権限配分の問題に加えて、人材の拡充や、調査・研究体制の充実といったコストが伴う。これが可能かどうかについても、それだけのコストを負担するのかどうかという問題に帰結する。

結局、開発援助の内在的限界を乗り越えようとするならば、前節で見たような手続き面での調整の手間やコストの問題に、日本がどれだけ取り組む用意があるのかについて考える必要がある。特に、開発援助を通じて貧困問題に対応するには、「税金は我々に役立つ形で使われている」と説得される側の国民が、「なぜ、わざわざ手間やコストをかけてまで、「日本のお金」を使う援助のやり方を変えなければならないのか」といった疑問に対して、納得できるような答えを提示する必要がある。

そのためには、開発援助の実態をより多角的に理解できるような情報を国民に提示できなければならない。これは、メディアの報道や、政府の広報活動のあり方をどうするのかという問題にとどまらない。開発援助が、理論と実践方法に支えられている以上、ドナーの行動を検討し、その行動に関連する情報を提供するという、膨大な知的活動を担う開発共同体が果たす役割が大きな意味を持つ。特に、ドナーによる課題設定や、援助方法について、何がどう問題なのかを問い続ける継続的な努力が求められる。

開発援助に内在的な限界がある、という指摘は、まだわが国では少なく、貴重な文献だと思います。大変勉強になりました。

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