「民主主義がアフリカ経済を殺す 最底辺の10億人の国で起きている真実」(ポール・コリアー著、日経BP社、2,310円)
「最底辺の10億人」(ボトム・ビリオン)を書いたポール・コリアーの新著。
原題は、Wars, Guns, and Votes, Democracy in Dangeraous Places(戦争、銃、投票。危険な場所での民主主義)であり、民主主義を否定しているような印象を与える邦題はミスリーディングです。最底辺の10億人の国は必ずしもアフリカの国ばかりではありませんし(アフガニスタンやイエメンもこのグループに入ります)。
本書では、最底辺の10億人の国々では、「安全保障」と「アカウンタビリティ」という、国家を形成する上で必要不可欠な公共財が存在しないなかで、形式的な選挙だけ導入しても選挙が新たな権力奪取の免罪符になるだけで、政治的暴力や内戦の発生、周辺国にそれが飛び火するリスクは減らないということを指摘しています。
そうした最底辺の10億人の国々、特にアフリカの国を多く例にとって現状をわかりやすく分析しつつ、「安全保障」と「アカウンタビリティ(チェックアンドバランスが効いた予算制度)」という公共財を供給するために国際社会は何ができるのかを説きます。
個人的には、小国では安全保障を提供できるだけの規模の経済がなく、そうした小国が集っていると不安定になるという点が、これまでそういう視点でものを考えていなかったので大変勉強になりました。
例えば内戦を経て小国に分裂した地域として旧ユーゴスラビアがありますが、デイトン合意を経てコソボ紛争後、一応の安定をみて各国ともに順調に経済成長を遂げているのは、バルカン半島が欧州にあって安全保障を国際社会(NATO等)が提供してきたから、と捉えると、それがないアフリカ諸国との違いが理解できたような気がしました。
また、「最底辺の10億人」に続く統計分析に基づく検証のほか、大きな歴史の流れのなかで物事を捉える視点、例えば植民地支配から脱した小国が集っている現在のアフリカの状況は、ローマ帝国が消失した直後のヨーロッパと似た状況にあり、その後ヨーロッパは国民国家を形成するのに1000年以上も要したとか、第二次世界大戦後の不安定な西ヨーロッパに安全保障(NATO)と経済協力(マーシャルプラン)をアメリカが提供し、40年間の冷戦を経て共産主義に勝利したのはその間一貫した政策を採り続けたからであって、それにならって現在不安定なアフリカに対して国際社会は長期間一貫した政策を適用する必要があるといった記述が大変興味深く、なるほどと思わせます。
前著についでアフリカやアフガン、イエメンといった国々に関心のある人には必読の書と思います。最近のニジェールでのクーデター事件のニュースなど、この本を読むと日頃接しているアフリカやその他の地域のニュースの見方がかわると思います。
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