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2010年3月22日 (月)

金融植民地を奪取せよ

Kinnyuushokuminnchi 『金融植民地を奪取せよ』(前田充浩著、ダイヤモンド社)を読みました。

「植民地」とか「金融地政学」など過激な表現が並んでいますが、これは著者が外交の現場の生々しさを分かりやすく伝えようとするが故と思われ、書いてあることは真っ当です。

私なりにポイントをまとめてみますと、以下のとおりとなります。

  • 開発援助は、貧しい開発途上国を支援する人道的側面だけでなく、各国が国益を増進するためのツールでもある。
  • ODAによってインフラ整備を行い、そこに援助国の企業が進出していてその結果当該途上国の経済発展が生じている国では、途上国政府も外交面でODA拠出国のサポートしたり、現地に進出している企業に便宜をはかるようになる。こうした「勢力圏」(本書の中では「投資パラダイス」と表現)をもつことが重要。
  • 日本は、譲許的な貸付である「円借款」という強力なツールをもって途上国のインフラ整備を支援し、勢力圏を拡大した。
  • しかし、それに危機感を抱いた先進諸国がOECDルールを改定し、タイド性の援助を規制。日本は自国企業が受注できる援助ができなくなってしまった。
  • さらに最近の途上国への民間資金フローの増大や日本の財政状況から円借款だけでは開発資金ニーズが到底満たせなくなっている。
  • そのため、引き続き勢力圏を維持・拡大するツールとして「Viability Gap Finance」といった民間資金を補完する形での援助など、従来のODAの枠にとらわれない、新たな開発ファイナンスツールを開発する必要あり。

この中で、従来のODAの枠にとらわれない開発ファイナンスツールを、という主張は、主張の動機は異なりますが、フランス援助庁のセヴェリーノ総裁が提唱する「Global Policy Finance」とも重なっていて興味深いです。

著者の前田氏は、著者略歴には書かれていませんが、経済産業省でOECDの輸出信用作業部会での交渉の最前線におられた方です。

本書の最大の特徴は、国際交渉の最前線の一般には知られていない事情がつまびらかにされている点です。

なぜそうされているか。著者は言います。

多くの国々を巻き込む共同体を構築する中で自国の国益を増大させるという離れ業は、各国に課せられた最高難度の課題である。(略)
この最高難度の課題に対応するために必要なのは、一にも二にも、頭のよさである。本書で述べたような国際社会のウラの姿を冷徹に見極め、「闇のルール」を自在に操り、オモテの世界で美しい国際ルールを構築を主導して世界の称賛を受けつつ、ウラの世界ではライバル国を罠にはめて知らん顔をする、その頭の良さである。

その頭の良さを国として発揮するためには、欧米の国が政策の策定にシンクタンクが大きく関与しているように、研究者をはじめとする多くの人の叡智を集める必要がありそのためには皆が議論に参画できるように政策決定過程をつまびらかにする必要があるというのが、著者が締めくくりで語る強い思いです。

確かに、私がかかわっている開発の世界でも、イギリスのDFIDは、そのバックにシンクタンクであるODIを抱え、万人が肯かざるを得ない理論をバックボーンに援助潮流のうねりを作り、その結果うまく自国の国益増進をはかっているように思われます。著者の主張は私にはすんなり腑に落ちました。

民主党政権になって官民一体となって原子力や鉄道など、日本のシステムを海外へ売り込もうとしていることもあり、著者の前著「国益奪還」とともに、読んでおくべき本だと思います。

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コメント

国際交渉は数多く行われており、また議事録も公開されないものが多いのではないかと思うので、外部からどう成果を測るかが難しいですね。前田さんの本は、これまで注目されていなかったOECD輸出信用作業部会の内容を詳らかにしている点で価値が高いと思います。

あと、当たり前田の蔵買ったさんのいわれる国益の方向性とパブリックセクターで働く人間のモチベーションをあわせるメカニズムについては、漠然とした「国益」の内容を個々の政策や施策レベルに落とし込むという作業が重要なように思います。

投稿: participant | 2010年4月18日 (日) 13時20分

国際交渉にあたる人が、どれだけ国益に資する発言、行動を行ったかについて成果を測る必要がありますね。大本営にて事前に調整した「発言要領」だけを発言して、議事録を書いて帰ってくるのは、成果は0。パブリックセクターで働く人間のモチベーションと国益の方向性を合致させるメカニズムが必要ですね。仕分け人にとっては国益=無駄排除一本やりではいけません。

投稿: 当たり前田の蔵買った | 2010年4月17日 (土) 14時14分

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