書籍・雑誌

2008年7月24日 (木)

貧困大国アメリカ

Hinnkonntaikokuamerica 「ルポ貧困大国アメリカ」(岩波新書)を読みました。

貧困であるがゆえに肥満になる理由や、公的セクターが民営化された故に災害対策などが十分になされない様子、貧しい家庭の子弟をターゲットにした軍のリクルート活動などが書かれています。

いくつかのイシューはNHKスペシャルなどでみて知ってはいましたが、それでも衝撃的な内容で、アマゾンでのレビューの多さにもそれが表れています。

感想を2つ。

ここまで経済的格差が大きくて政府が無策でも政権が転覆したりしないのは、アメリカ国民の政府に対する期待値が高くないことの表れなんでしょうね。ハリケーンに襲われたニューオリンズで、被災したスペインの国会議員(だったか?)が、人々が政府を全く頼りにしていないことに驚いたといっていたことを思い出します。

あと、日本や欧州で生活した身には信じられないような話でも、それが日常で普通であると人間というのは受け入れられてしまうものなのかもしれない、とも思いました。新書の分量でも、これでもか、とアメリカの格差と貧困の記事が続くと、最初の50ページで受けた衝撃が、おわりの方になると「慣れ」てしまっています。

そういう意味では、常に他国の事例やいろんな人の見方・考え方に学んで、「普通」だと思っていることを相対化するよう努めることが大事なのでしょうね。

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2008年7月19日 (土)

ボトムビリオン

Bottom_billion 「最底辺の10億人 最も貧しい国々のために本当になすべきことは何か?」(ポール・コリアー著、中谷和男訳、日経BP社、2310円)を読みました。

この本が取り上げているのは、開発途上国の中でも内陸国で紛争やクーデターが頻発し、経済のグローバル化の恩恵を得られていない国々です。ほとんどはサブサハラアフリカですが、中央アジアの国々もここに含まれます。

これらの国々は紛争や、劣悪なガバナンス、内陸国であるがゆえに周辺国の経済状況・インフラに左右される、天然資源が豊富にある場合には、それゆえに自国通貨の為替レートが高くなるため輸出産業が育たない(いわゆる「オランダ病」)、といった「罠」にはまっている、というのが本書の前半。

本書の後半は、それぞれの罠から抜け出すためには国際社会は何をなすべきかを述べています。提言は、いずれもアカデミックな分析に基づいて導かれており、主張に説得力をもたせています。

開発援助については、やみくもな資金援助はオランダ病の弊害をもたらしたり、被援助国の改革努力をくじいてしまうので、投入のタイミングとスキームの組み合わせが重要であること、また、改革を軌道に乗せるためには10年単位での長期の継続的な支援が必要であること、などが述べられています。

また、開発の問題はなにかとODAで解決されようとする傾向にありますが、筆者はODAだけではだめで、紛争を予防する軍事的介入、石油やダイヤモンドをめぐる汚職などのガバナンスの低下を防ぐ国際憲章の設定(「紛争ダイヤモンド」を市場から締め出すキンバリー・プロセスがその一例)、途上国に有利な貿易政策、とくに農産物の関税障壁の撤廃などが組み合されなければならない、と主張します。

日本の開発途上国とのかかわりはアジアに偏っており、つい「アジアの経験をアフリカにも」となどと言ってしまうのですが、この本を読むと、サブサハラアフリカの国がおかれている状況は順調に成長している東南アジアや南アジア、中国といった国々とは相当違うことがわかります。

イギリスや北欧の援助関係者と話すときに、話がかみあわなったりすることがありますが、それは、それぞれが念頭においている国や地域が違うからです。この本を読んでいるときに、彼らはこういうことがいいたかったのかとすとんと腑に落ちた個所がいくつもありました。

そういうわけで極めて有用な本です。関心のある人はぜひ読むべきですし、関心がなくても、大変わかりやすく書いてありますので、読むことをお勧めします。

うれしいことに近所の本屋さんでも平積みされていますが、こういう本が売れるようになると日本はそうとうイケている国になると思います。

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2008年7月 2日 (水)

サミットの費用

Shunou 平林博元駐仏大使が書いた「首脳外交力 首相、あなた自身がメッセージです!」NHK出版生活人新書 700円)を読みました。

洞爺湖サミットを前にタイムリーな出版で、サミットの舞台裏などが詳しく書いてあります。エキサイティングかどうかは別にして、なるほど外務省というのはこういう仕事をするのですね、ということは分かります。

全体的に記載がサブスタンスというよりロジの部分が多いのが目立ちますが、外交機密にふれるのでサブはあまりかけなかった、ということかもしれません。

なお、この中で洞爺湖サミットの費用についてこんな記述があります。

サミットの準備も大ごとだ。中心となる外務省は、一年以上前から体制を築くが、最盛期には200人規模で専用の事務局を運営する。サミット開催の予算も大きなものになる。特に、インフラが十分でない沖縄や洞爺湖のようにリゾート地で開催される場合には、余計な経費がかかる。九州・沖縄サミットでは約800億円の予算であったが、洞爺湖では約600億円の予定である。その半分以上は警備関係の予算である。

600億円、しかもその半分以上が警備関係とは。どうりで最近駅で駅員さん以上の数のおまわりさんを見るわけです。

首脳同士が一同に会して協議することは大事なのだろうと思うのですが、これを家族に言ったら、

「でもSkypeでやったらタダじゃん」

まあ、確かに600億円という金額や、外務省だけで200人が駆り出されることを考えれば、首脳同士がロジとかプロトコールとかきにせず、気軽にSkypeで議論しあえるような環境ができれば、それにこしたことはありませんが…。

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2008年6月30日 (月)

脳と気持ちの整理術

Brain_and_feelings さまざまに飛び交うメールや次々にかかってくる問い合わせの電話を受けているうちに、わけがわからなくなってくる…という経験は誰しもするものだと思います。

私も最近忙しくなってきて、朝いちばんでやろうと思っていたことが、日中ばたばたと仕事しているうちにどこかにいってしまい、帰る際にせめて机のうえはきれいにして、と思って片づけていると一番したから出てきたり。

先日、「脳と気持ちの整理術 意欲・実行・解決力を高める(築山節著、NHK出版生活人新書)という本を読んだのですが、ここに書かれている内容が実践的で、上記のような状況に対処するのに効果的なように感じました。

特に役に立ったのが「脳は同時に複数のことを処理することは苦手」という箇所。ある文書を起案しているときに、メールが入ってきたらそのメールをみてしまい、文書を起案しながらそのメールのことも気になってしまう、という仕事の仕方は大変効率が悪い

したがって、「他のことが気になる」という感情をうまく処理することが大事であり、そのためには段取りを決めたり、物理的に気になるものを片づけてしまったり、という工夫が有効なのだそうです。

確かに、電話やメールから離れて、一人で会議室にいって書類を書いたりすると集中できて、短時間で処理できます。

確か、以前読んだケインズ伝でも、ケインズは経済学の研究のほかにケンブリッジの寮の運営委員だとか、本当に多種多様なことを行っていましたが、運営委員の会議が終わるとすぐに頭はほかのサブジェクトに切り替わり、もう全然運営委員のことは頭になかった、というようなエピソードがのっていました。

ケインズのような人はぱっと切り替えが可能なのでしょうが、我々凡人は、机を整理したり、場所をかえたりして、思考の切り替えを手助けする必要があるのでしょうね。

そのほか、情報を入力するだけでなく、それをいったん出力することを通じて再度入力することの重要性など(日記やブログにつけて出力することも記憶の定着はいいそうです)、すぐに実行に移せるヒントがあって、なかなかの良書だと思いました。

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2008年6月13日 (金)

石油がわかれば世界が読める

Oil 「石油がわかれば世界が読める」(瀬川幸一編、朝日新書、720円+税)

灯油やガソリンを通じて身近に感じている石油ですが、この本を読んで「何も分かってなかったなあ」としみじみ思う一冊です。それぐらい、全編、「へええ」で満ちています。

本書の重要なメッセージは、石油は極めてエネルギー効率の高い資源で、このすぐれた資源を効率的に使うことが重要、という点です。そのための技術革新は目覚ましいことや、オイルサンドやメタンハイドレードの開発の記述、日本では全く普及していないディーゼル車のメリットなどの記述が興味深いです。

また、バイオマスなどの代替エネルギーも安易な活用はかえって温暖化ガスの排出増につながる、といった指摘もあって、石油価格の高騰や温暖化をテーマをした洞爺湖サミットを前にタイムリーな本だと思います。

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2008年6月11日 (水)

堂々たる政治

Doudoutaruseiji 「堂々たる政治」(与謝野馨著、新潮新書、680円)を読了。

帯に「耳障りなことを言う。それが私の仕事である」と大きく書いてありますが、本書の随所にそれが表れています。

安倍総理辞任時の裏話や生い立ち、中曽根元総理に見出されたエピソードなども興味深いですが、本書で読み応えがあるのは、第6章「国家は割り勘である」と第7章「霞が関埋蔵金伝説と「上げ潮」路線」のあたりでしょう。

与謝野氏は、国家は国民が割り勘で運営している組織であり、国に負担を求めるのであればそれは結局、割り勘している国民が負担せざるをえないと説明します。

よく財政の無駄を省けば財政再建が可能という主張を聞きますが、与謝野氏は、日本の役人の数は諸外国の中でも最も少ないことをひきつつ、国の財政赤字はもはや無駄を省けば何とかなるというレベルではなく、消費税の10%への引き上げなど、割り勘の額を増やさなくてはならないと主張します。

そして、それは誰もがわかっているが、選挙があるので誰も言わないのが問題だ、とし、一方で経済成長率を上げることで財政赤字は解消可能だとする上げ潮派については、経済成長率をあげる具体的方策を持ち合わせておらず、夢ばかりふりまいていると批判しています。

このあたりの財政再建派と上げ潮派の政策論争は、「経済財政戦記」でも詳細にとりあげられているのですが、当事者の言葉で語られているのを読むと一層関心をそそられます。

また、次の箇所も印象に残りました。

安倍政権の時から、「消えた年金」が大きな政治問題に浮上している。事務的に年金の帳簿付けがうまくいっていなかったなどというのは、みっともない話で、社会保険庁がたるんでいるとしか言えない。つまり、帳簿をきちんとつけていない会計係がいたということだ。

ただし、これは年金制度の持続可能性とは全く関係のない話である。ところが、これがあたかも年金問題の本質として議論されているのは滑稽である。そのことをよく考えて政治をしないといけない

家計でいうと、帳簿の付け方の問題ばかり追求しているようなものである。これでは年金の持続可能性ということとかけ離れたところで議論が行われてしまう。社会保険庁の怠慢さは論外だが、それと年金制度の維持の問題とはスケールが違いすぎるのだ。

これと同じことが最近の「居酒屋タクシー問題」にも言えるのではないでしょうか。

マスコミは連日のように大きくとりあげ、先日もあるニュースキャスターが「こんなことでは国民は財政再建なんていったって納得しませんよ」というようなコメントをしていましたが、公務員がタクシーの中でビールやおつまみをもらっていたことと、毎年30兆円の赤字を出している財政問題とでは、国民生活に与える影響のスケールが違いすぎるわけで、マスコミも政治家もそのあたりに留意していただきたいところです。

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2008年5月23日 (金)

TICAD前の週末に必読

「アフリカ 苦悩する大陸」(ロバート・ゲスト著、伊藤真訳、東洋経済新報社、2200円+税)

ジャーナリストの書く本は、読みやすいけれども個別のエピソードの羅列で概観がつかみにくいことがありますが、本書は英「エコノミスト」の元アフリカ担当編集長が執筆しただけあって、個別の事例を紹介しつつ、全体像や背景をわかりやすく解説しています。

テーマは民族対立、財産権(の欠如)、エイズ、援助、貿易など多岐にわたりますが、本書の通底にあるのはきちんと機能する政府がいかに重要かというメッセージです。欧州のドナーが政府の能力強化とともに、市民社会の育成の重要性をしばしば強調するのですが、その理由がよくわかりました。

TICAD前の週末にぜひとも読んでおくべき本だと思います。

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2008年5月18日 (日)

医学のたまご

31ratokoktl__ss500_医学のたまご」(海堂尊著、理論社、1300円+税)を読みました。

うん、これはいい本です。久し振りに寝るのも惜しんで読みました。

ある中学生がひょんなことから大学の医学部に入学し、研究をすることになった、というストーリーで、そこで発見をしたと思ったら追試もしないうちに教授が発表しようといいだして徐々にトラブルに巻き込まれていく…というストーリーですが、展開にどんどん引き込まれていき、読後感もさわやかです。

中高生向けに書かれたということですが、大人が読んでも面白いです。ジュヴナイル小説は自分が純真無垢だった(?)頃を思い出させてくれるので、そういう意味でもお勧めです。

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2008年5月 8日 (木)

現代アフリカと開発経済学

Modernafrica 今月、TICAD IVが開催されるとあって新聞もテレビもアフリカ関連の番組・記事を多数紹介しています。

TICADはこれで4回目ですが、3回目のときと比べてもその報道振りは際立っているように思います(当時、私のアンテナが低かった可能性もありますが)。

他方、そうした記事を丹念にフォローするのは結構コストがかかりますし、そもそも「アフリカ」といっても北アフリカから南アフリカ、西アフリカから東アフリカまで多岐にわたり、ひとくくりにすることが困難です。

そういうときはやはり新聞記事ではなく、一冊本を読むのがいいのではないかと思って読んでみたのが「現代アフリカと開発経済学 市場経済の荒波のなかで」(峯 陽一著、日本評論社、3300円)。

アフリカの農業の振興、都市化、累積債務、構造調整、飢饉といった課題をルイス、ベイツ、ハーシュマン、アマルティア・センといった経済学者、社会学者が提唱した理論をあてはめつつ解説する、という構成をとっています。

個人的には「農工間労働移動モデル」のルイスがカリブ海出身の非白人経済学者で、自身のルーツである西アフリカの経済開発に実務家として携わっていたというエピソードが印象に残りました。また、「アフリカの飢饉とセン」の章では、今話題になっている食糧問題への対応のヒントとなるような記載もあります。

経済学やアフリカに予備知識がない人がいきなり読むととっつきにくさがあるかもしれませんが、以前紹介した「図説 アフリカ経済」などとあわせて読むと、おぼろげながらアフリカ経済の姿が見えてくるのではないかと思います。

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2008年4月 9日 (水)

不機嫌な職場

同僚に会議に参加してほしいとメールをうったら、強い調子で否定的な返事が返ってきて「ありゃりゃ」と思っていたところ、本屋さんでタイトルをみて思わず手に取ってしまいました。

「不機嫌な職場 なぜ社員同士で協力できないのか」(高橋克徳、河合太介、永田稔、渡部幹著、講談社現代新書、720円)

本の帯には、「こんな職場は要注意!!」とあり、

  • 「新しいことに参加してくれない」
  • 「メールなどで一方的な指示を出してきてこちらの対応が遅いとキレる」
  • 「派遣社員やパート社員を名前で呼ばない」
  • 「おはようなどの挨拶がなく、皆淡々と仕事を始める」
  • 「隣の席にいる人とも、やりとりはメールのみ」

といった項目が並んでいます。

私の職場はさすがにここまでひどくありませんが、それでも年度末などで忙しくなると他の人がなにをやっているのかまではフォローできなくなってきて、自分が「タコツボ化」しているのを感じます。

この本では、グーグルやサイバーエージェントといった企業の例も紹介しつつ、社員が協力しあって生き生きと働く職場づくりのための方策について書いています。

ポイントは、目標や価値観の「共有化」、「面白い」インフォーマル活動を通じた評判情報の流通、職員同士が感謝し認知しあう風土作り、にあるようです。確かにここにでてくるグーグルやサイバーエージェントの事例をみていると働くのが楽しそうだし、その楽しさが企業の活力につながっているのが伝わってきます。

同じ働くのであれば、孤立してしかめっ面をして仕事するより、みんなで協力しあって楽しく仕事したほうがいい。確か藤澤和雄調教師も「Happy people make happy horse」といっていたはずです。

私の職場は比較的保守的なところなので、さすがにコミュニケーション促進のために職場にゲームがおいてあるグーグルのようなわけにはいきませんが、それでも、生き生きとした職場づくりに取り組んでみようという気にさせられる本でした。

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2008年4月 2日 (水)

アメリカの経済政策

Economic_policy_of_us 「アメリカの経済政策 強さは持続できるのか」(中尾武彦著、中公新書、800円)を読みました。

著者は、在米大使館で財務担当公使をされておられ、駐在当時の論考をまとめたものです。当時といってもそれはつい最近の話で、脱稿したのが今年の1月のため、サブプライムローンの話も入っています。

アメリカのマクロ経済や金融セクターから対外援助政策まで幅広くとりあげていますが、そのいずれもがコンパクトにまとめられていて、かつ要所要所にあるコラムでは経済学の基本的な考え方を解説するなど、充実した内容になっています。

著者の「我が国のODAと国際的な援助潮流」という論文を読んだときにも、幅広いテーマを読みやすくまとめておられるなあ、と思ったのですが、本書にも同様の感想をもちました。

アメリカ経済の現状を手っ取り早く概観したい人にはお勧めだと思います。

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2008年3月28日 (金)

つぶせ!裁判員制度

あなたは刑事裁判の被告になったら、裁判員に裁かれたいですか。それとも裁判官に裁かれたいですか。

私なら、どちらかといえば後者です。

という意識を持っていたので、本屋で「つぶせ!裁判員制度」(井上薫著、新潮新書、680円)を見つけたとき、思わず手にとってしまいました。

著者は元裁判官ですが、裁判員制度の問題点を本書で指摘します。

裁判所は国民の代表たる国会が定めた法令を適切に適用する(「すべて裁判官は、・・・この憲法及び法律のみに拘束される」)ことで民主主義のコントロールが効いています。法律を適切に適用するためには、相応の専門知識が必要であり、であればこそ司法試験制度があるわけです。

ところが裁判員制度が始まると、法令について素人の裁判員が、事実認定や法令の適用、量刑の決定を行うことになります。「法律のみに拘束される」となっていても、その法律がわからなければ拘束されようもなく、結局、主観とか多数決とか、なんとなくとか、そういう法律以外の基準で判断されるおそれが非常に強い。

そういう制度は憲法違反であり、施行前に取り消すべく国民は行動を起こすべきである、というのが本書の主張です。

思うに、普通の人は、法律の知識とかいう以前に条文を読んでそれにあてはめるという作業に慣れていないのじゃないかと。会社で規程とか規則があるのに、わずか数ページ、数行の条文ですら読まずに人々が大雑把に仕事しているのをみるとつくづくそう思います。

そういうのが普通の人なのに、その普通の人が裁判に参加して法令を適切に適用するというのは確かに非現実的という気がします。

ところで裁判員制度って誰が、どういう目的で導入を推進しているのでしょう。現場の裁判官や弁護士も、そして国民も望んでいないのに(裁判員をやりたいという人は少数という世論調査がある)、なぜ導入が決定されたのか、不思議です。

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2008年3月11日 (火)

はじめて読むドラッカー

Professional 普段、あまり経営書を読まないのですが、職場で「良い」と聞いて読んでみました。

はじめて読むドラッカー【自己実現編】 プロフェッショナルの条件

一部、一般論すぎてピンと来ない箇所もないわけではありませんが、そこかしこに「気付き」を与えてくれる文章がちりばめられていて、結構よみながら「おお」と思ってしまいました。

例えば「権限に焦点を合わせてはならない」と題した一節。

貢献に焦点を合わせることこそ、成果を上げる鍵である。仕事の内容、水準、影響力において、あるいは、上司、同僚、部下との関係において、さらには会議や報告など日常の業務において、成果を上げる鍵である。

ところがほとんどの人が、下の方に焦点を合わせたがる。成果ではなく、権限に焦点を合わせる。組織や上司が自分にしてくれるべきことや、自らが持つべき権限を気にする。その結果、本当の成果を上げられない。
(Part2 3章 貢献を重視する P.83)

確かに、この決裁をどうやって通そうとか、この処理は規程に従うとどうなんだっけ…みたいなことばかりに気をとられていると、組織の中のことばかり考えてしまいがちです。

そうではなく、ドラッカーは、貢献に焦点を合わせることによって、成果が存在する唯一の場所である外の世界に注意を向けることの重要性を説きます。

「そんなのあたりまえじゃないか」といわれてしまいそうですが、特にバックオフィスにいると組織内のことばかりでアタマが一杯になってしまいますので、目が開かれた思いがしました。

その他にもいろいろとためになることが書いてあって、「もっと前に読んでおけばよかった」と思わないでもありませんが、「もう手遅れでは」と思う心を本書の中の次のエピソードが勇気付けてくれます。

ある夜、19世紀の作曲家ヴェルディのオペラを聴いた。1893年に書いた最後のオペラ「ファルスタッフ」だった。(略) そして私は、既にワーグナーと肩を並べる身でありながら、しかも80歳という年齢で、なぜ並はずれて難しいオペラをもう一曲書くという大変な仕事に取り組んだのかとの問いに答えた彼の言葉を知った。

「いつも失敗してきた。だから、もう一度挑戦する必要があった。」

私はこの言葉を忘れたことがない。
(Part3 1章 私の人生を変えた七つの経験 P.98-99 強調は引用者)

すごいの一言です。

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2008年2月23日 (土)

こんなに使える経済学

Economics_is_useful 「こんなに使える経済学-肥満から出世まで」(大竹文雄 編、ちくま新書、680円+税)

経済学の分析枠組みで、肥満の問題や教育、労働問題を考えるとこうなる、という事例を5,6ページの分量にまとめて紹介し、経済学への関心を喚起させようという本。

いずれのトピックも読みやすく、「経済学」というと抽象的でとっつきにくいイメージをもっている人でもこれを読めば勉強してみようか、という気になるのではないでしょうか。

また、私は編纂者の大竹大阪大学教授の序文がわかりやすくて素晴らしいと思いました。

以下、印象の残った文をいくつか。

経済学を学ぶときに最も重要なことは、人は幸福になろうというインセンティブをもって行動しているということを理解することである。そのような人々のインセンティブを無視して組織や制度を作ると、必ず失敗するということである。命令をしたり、規制さえすれば必ずそのとおりに人々が行動するという前提で制度を作ると、うまくいかない。
(序 「経済学は役立たず」は本当か P.11)

経済学の本質的な面白さは、社会の仕組みを考えることで、どうしたら人々が豊かになるかを考えることだ。解雇規制を緩和するほうがいいという提案を聞けば、多くの人は「不安定な雇用にする方がいいわけがない」という拒否反応を示す。(略)しかし、解雇規制を緩和したほうが、企業が積極的に人を雇うようになって、職を失う人よりも職を得る人の方が多くなるかもしれない。
(略)
制度を設計する上では、そういう矛盾がつねにある。ある制度変更をすると、その当事者本人がどうなるかということだけではなくて、そういう制度を変更すると次に何が起こるかという先まで考えると、人々の常識とは逆のことが起こることもある。そういうことをしっかり見据えて、本当に豊かになる方法を考えられるところが経済学の一番面白い点である。
(同、P.17-18)

いい入門書なので、これで巻末に次に読むべき本のリストでも載せてくれればなおよかったのですが、それは望みすぎでしょうか。

いずれにしてもお勧めです。

【おまけ】
経済学を無視し、インセンティヴとか次に何が起きるかを考えずに政策や法律を作るとこうなります。
「猫でもわかる「ジンバブエ」の簡単な解説」
http://alfalfa.livedoor.biz/archives/51237737.html

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2008年2月19日 (火)

国家は、いらない

No_need_for_the_state 東洋経済の書評でとりあげられていたので読んでみました。

「国家は、いらない」(蔵研也著、洋泉社ペーパーバックス、952円+税)

普通、市場経済に任せていては格差が拡大したり公共財が供給されなかったりするため、政府が規制を設けて経済的弱者を保護したり、公益事業を行ったりします。

ところが、本書では、その規制や公益事業のために保護されるべき経済的弱者が不利益をこうむっている実態がエビデンスとともに明らかにされます。

例えば、電力やガスは新規参入が規制されているために電力会社やガス会社の一社独占のため諸外国よりも国民は高い料金を払わされており、農業保護政策によって自由化した場合に比べて米は8倍、小麦は2.5倍も高くなっており、結果的に低所得者層を直撃しています。

さらに、私が驚いたのは、累進性があるとされる税制でも、多様な控除制度があるため、実際には8割もの日本人が最低税率にあること、年収が1000万円以下の場合は所得があがるほど実効税率は低くなっているという事実です。

どうしてこういうことになってしまうのか?

それは民主主義の過程で、公益を主張する力の強い人々が政策の意図を捻じ曲げしまうからだと著者はいいます。

しかし、公共選択の理論が明らかにしているように、ほとんど定義によって、弱者が使える資源に比べて、強者の使える資源のほうがはるかに多い。

自分が強者であれば、弱者保護政策の名の下に税金をとりあげられるのを等閑視するはずがないのだ。政治家にロビー活動をして、弱者保護は経済成長に不利であることを説得したり、あるいは税制に実質的な抜け穴をつくってもらおうとするだろう。

結果、弱者保護は民主主義の政治過程のなかでほとんどが骨抜きにされることになってしまう。
(第10章 真の公益性を実現するのは誰なのか P229-230)

ではどうすればよいのか。

著者は、弱者を直接に金銭補助し、それ以外の政策はその制定過程で強者の介入や官僚のお手盛りが発生して弱者を踏みつけにするので一切廃止すべきと主張します。

それ以外の、政府が従来供給してきた公共的な活動は、自発的な団体がやるほうがモチベーションにおいてもやり方においても政府よりも効率が高いのでこれらに任せるべきである、とも。これは、例えば開発援助は、政府が納税者から集めた税金でODAとして実施するよりも自発的な団体である開発NGOなんかがやったほうが効率的かもしれない、ということですね。(注:この例は私が考えたもの)

かなりラディカルな議論ですが、なるほどと思わせるところが多分にあります。大変勉強になりました。

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2008年2月 6日 (水)

ダメな議論

Dame 昨日とりあげた日能研の「シカクいアタマを…」を読んでいて、「ダメな議論-論理思考で見抜く」(飯田泰之著、ちくま新書、680円+税)のことを思い出しました。

「ダメな議論」は世の中のさまざまな言説のなかからダメな議論を見抜き、よりまともな(有用な)議論を選択していくための方法を記した本です。

ところどころ経済学の考え方になじんでいないと飲み込みづらい箇所がありますが、それを除けば平易に書いてあり、なにより「ダメ議論」を見抜く手法が簡易に得られるという点で大変優れた本です。より多くの人がこの本を読んでリテラシーを身につければ政策論争も、テレビでの報道のされ方も大分変わると思うのですが。

なお、日能研の「シカクい…」でとりあげられていた学習院大学付属中学校の問題は、食料自給率を上げるという政策が正しいという前提で出題されていますが、いわゆる食糧安保論の議論としてのダメさ加減は、本書の第4章でとりあげられていますので、関心のある方はぜひ本書を読んでみてください。

なお、著者の「ソーシャル・サイエンス・ハック!」は面白くてためになるのでお勧めです。

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2008年2月 3日 (日)

新説 母馬血統学

Hahauma 「新説 母馬血統学」(吉沢譲治著、講談社+α文庫 780円)を読みました。

サラブレッドは当然父と母の双方から遺伝子を受け継ぐわけで、父系と同じように母系も重要なのですが、父系が系統ごとに整理されており、また産駒が多いため統計も取りやすいのに対して、母系は繁殖牝馬の数は種牡馬のそれをはるかに上回り、茫漠としていて捉えどころがありません。

そんなわけで私も母系についてはぼんやりとしたイメージしかもっておらず、それが気持ち悪かったのですが、この本ではイギリスでジェネラルスタッドブックやファミリーナンバー、日本の牝系(種正系とか星旗系とか)についてまとめてあり、大分すっきりしました。

しかし、帯にある「画期的新理論!! ウオッカ激走の秘密!」というのはどうかなあ…。そのような新理論は本文中にはないし、著者が本書を書いた意図にも合致していないのではないかと。

というわけで、本書に新理論を期待してはいけませんが、それがなくても十分楽しめると思います。読み終わって思わず私もカタログの血統表にRibotとかBustedとかの重厚なステイヤー血統を探してしまいました。

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2008年1月28日 (月)

昭和天皇の終戦史

Shouwa昭和天皇の終戦史(吉田裕著、岩波新書、780円+税)

実家の本棚で発見。終戦を体験した私の父の世代が読むととりわけ感慨が深いのではないかと思いますが、私のような戦後世代が読んでも新たな発見がいろいろとあり、興味深く読めます。

この本では、1990年に存在が明らかになった昭和天皇の「独白録」がどのような状況で、どのような意図をもって作成されたものかを軸に、終戦期の日本側の対応を豊富な史料をもとに分析したものです。

興味深いのは、昭和天皇に戦争責任の議論が及ぶのを回避するため、日本側の宮中グループや戦時中陸軍と対立関係にあった大臣や海軍の提督、外務官僚などの保守層が戦争責任は陸軍を核とする軍部にあるとする方向で占領軍の取調べや東京裁判での証言を行ったことです。これは米ソの対立が徐々に深まっていく中、天皇を訴追しないというGHQの方針とも合致していました。

この背景には、東京裁判ではニュルンベルク裁判と異なり、証拠書類が焼失してしまったため、占領軍は日本側の関係者の証言によって立論せざるを得なかったことがあるのですが、よく「勝者が敗者を裁いた裁判」とされる東京裁判に日本側もある意味積極的に協力していたという事実は新たな発見でした。

また、本書では、前述の保守層が軍部に戦争責任を担わせた結果、実際には彼らも支持していた(少なくとも反対はしなかった)満州事変等のアジアへの戦争責任についてはあいまいなままとなってしまったと指摘しています。

書かれたのは1992年と随分前になりますが、一読の価値ありです。

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2008年1月14日 (月)

データマイニング予想

Supercrunchers 最近、話題になっている「その数学が戦略を決める」(イアン・エアーズ著、山形浩生訳、文藝春秋刊、1714円+税)を読みました。

膨大なデータを用いた回帰分析や無作為抽出テストといった統計的手法を用いて今後起こりそうな確率を予測し、それに基づいて企業や政府、消費者が意思決定を行うようになっていることを書いた本です。

こうした計算が扱う範囲は幅広く、ある年に作られたワインがビンテージワインになるかどうか、野球のドラフトで選択すべき選手、映画がヒットする確率、有効な教育方法の検証、支援すべき開発プロジェクトの見極めなど、多岐にわたっているそうです。

大変内容の濃い本なので、関心のある人は絶対読むべし。

さて、本書では、統計技法に関して「ニューラルネットワーク」について事例している箇所があります。

ニューラルネットワークとは、コンピュータが人間の神経細胞のように情報を処理する仕組みで、コンピュータは過去のデータを使って方程式のスイッチを訓練し、最適の重み付けを行うようにプログラミングされています。

その事例紹介として、本書のなかではアリゾナ大学の研究者たちがグレイハウンド・レースの勝ち犬を予測するニューラルネットワークを構築したことが書かれています。

日ごとの競技シート何千件に基づき、五十以上の変数をそこに与えた-犬の身体属性、トレーナー、そしてもちろん、各種条件のもとでその犬がどのくらいの戦績を収めたか。(中略)それからニューラル推計プロセスが、同じ歴史データをもとにちがった重みをあれこれ何度も試した-ときには何百回も-そして相互接続する方程式の重みづけのどれがもっとも正確な推計を出すかを確かめたのだ。その訓練で得られた重みを使って、将来のドッグレース100試合の結果を彼らは予測した。(「その数学が戦略を決める」第6章 なぜいま絶対計算の波が起こっているのか P.192)

その結果、人間の予想家がマイナスを出すなかで、アリゾナ大学のコンピュータはプラスのリターンをはじき出したのです。その結果、アメリカではいまや多くの賭け屋がニューラル予想に頼っている由。

おお、それはすごい。日本ではニューラル予想はないのか。

と思ったら、身近なところにありました。JRA-VANが提供している「データマイニング予測」は、まさにニューラルネットワークを使った予測です。

その検証結果はこちらのページのとおり。

すごい。データマイニング数値の高い馬の単勝を買うと、1点買い~5点買いの全てのパターンにおいて、通算で収支はプラスになっています。確率的に回収率は75%(単・複の場合は80%)に収斂していくはずの中央競馬で、119%から154%の回収率を記録するとはすばらしい。

で、早速先週の土日、中山開催を中心にデータマイニング予測の数値が高い馬の単勝を買ってみたところ、見事にプラス収支。単勝なので一攫千金のようなことはありませんが、ニューラル予測の優秀さに感心しました。

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2008年1月 3日 (木)

エコノミック・ヒットマン

Economic_hitman 「エコノミック・ヒットマン 途上国を食い物にするアメリカ」(ジョン・パーキンス著、古草秀子訳、東洋経済新報社 1800円+税)を読みました。

東洋経済という名だたる出版社、原著はアメリカでベストセラーならば、と思って期待して読んでみましたが、正直なところ、人にお勧めできるような本ではありませんでした。

エコノミック・ヒットマンとは、

  • 開発途上国に発電所などの開発援助プロジェクトを売り込み、それを裏付ける経済データを作成することによって世界銀行やUSAIDなどの資金を呼び込み、それをアメリカ企業に受注させて資金をアメリカに還流させるとともに、
  • 途上国を世銀融資などにより借金漬けにして債権者(つまりアメリカ)のいいなりになるような状況に追い込み、軍事基地の設置や天然資源の獲得などにおいてアメリカの影響力を行使する

ような役目をおった工作員のことだそうです。

著者のパーキンス氏は、アメリカの国家安全保障局(NSA)にスカウトされ、美貌の女性教官から訓練を受けた後、インドネシア、サウジアラビア、パナマなどに派遣され、民間コンサルタントのチーフエコノミストとして楽観的な経済見通しの作成や開発計画の売り込みを行います。

私には著者の体験の真贋を見極めるすべはありませんが、本書を読む上の留意点は、著者がエコノミック・ヒットマンとして働いたという時期は1960年代から70年代にかけてで、いかにも時代が古いことです。

現在においては、上述のエコノミック・ヒットマンの「手口」は通用しないものと思われます。理由は以下のとおりです。

  • まず国際援助機関や政府関係機関の情報公開が進み、絵空事のような経済予測(年率17%の成長!)などは受け入れられる余地がないこと。
  • 援助のアンタイド化(ひもなし化)が進み、特定国企業への資金還流はできないこと。
  • 途上国の債務は結局先進国の財政コストによって削減されていること、またその結果、債務持続性分析は慎重に行われていること。
  • 開発援助の世界はアメリカ以外にも欧州諸国、日本といったプレーヤーがおり、アメリカ一国が勝手気ままなことができる世界ではないこと。

こうしたことは少しでも開発援助について知っている人ならすぐ思いつく点ですが、アマゾンの書評をみると好意的なものが多くて、結構驚きです。

この本を読んで「アメリカは国家的な意思として途上国を食い物にしている!」と思った人は、ぜひアメリカ政府(クリントン政権)の中枢にいて世銀のチーフエコノミストもやったスティグリッツの著作と読み比べることをお勧めいたします。

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2007年12月20日 (木)

本命=大穴バイアス

51crjfflvsl__ss400_ 「セイラー教授の行動経済学入門」(リチャード・セイラー著、篠原勝訳、ダイヤモンド社、1800円+税)を読んでいます。

行動経済学とは、従来の経済学が仮定してきた合理的な「経済人」は、実際の人間の行動を反映したものではない、ということに着目した経済学です。

この本の第10章では「競馬と宝クジにみる市場の効率性と合理性」(原著ではPari-mutuel betting markets)と題して、競馬における勝ち馬投票行動について考察を加えています。

競馬という市場は、人気と結果に高い相関があり、市場の効率性は高いと判断されるものの、それでもカルフォルニア州の競馬5000レースを解析すると「本命=大穴バイアス」が存在するといいます。これは、本命馬はオッズ以上に勝つ確率が高く穴馬はオッズが示すよりもさらに勝つ確率が低いことをさします。

オッズが18対1を超えると期待配当率は急激に落ち込み、100対1では掛け金1ドルの期待配当はわずか13.7セントまで下がる。この意味は、「100対1のオッズの馬に賭けると、100回のレースのうち1回優勝するのではなく、実際にはなんと730回に1回勝つだけ」ということになる。

このことから、筆者は競馬必勝法として、大本命馬券にもっと大きく張ることを勧めています。逆に穴狙いはオッズが示す以上にくることは少ない、と。競馬は穴党でなければ続かないなどといいますが、どうも逆なようです。

このほか、この本では競馬の投票市場の「ゆがみ」をついた馬券必勝法として、本命馬の単勝シェアと複勝シェアを比較し、後者のシェアが低い場合にこの馬の複勝を狙い打つことも推奨しています。

この分析の基本的な考え方は、1着に賭けられた全金額に占める馬iの割合と、2着以内入賞、3着以内入賞に賭けられた金額中の馬iの割合とをくらべてみることにある。たとえば、1着に賭けられた掛け金総額の40%を馬iが占めているとき、同じ馬の2着以内入賞の目には15%しか掛け金が集まっていないなら、2着以内入賞に賭ける方がたくさん儲かるというわけだ。このようなチャンスは普通、1日のレースで2回ないし4回めぐってくる。2シーズンにわたるレースのデータを調べた実証研究では、2着、3着入賞馬券で平均11%もの配当を稼ぐことが可能であると判明した。(中略) この方式が公表されたにもかかわらず、儲けのチャンスが消えてなくなった様子は一向にみられない」。

へええ。

これを読んであわててTargetを起動しましたが(笑)、同ソフトでは単勝のシェアはでますが、複勝のシェアはでないのですよね。うーん、残念。

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2007年12月11日 (火)

挑戦!競馬革命

Chousenkeibakakumei本屋で「挑戦!競馬革命」(角居勝彦著、宝島社新書、700円+税)をみかけたので買ってみました。

日経新聞の「私の履歴書」が面白いように、どの分野でも成功した人が自らを語るのを聞くのは勉強になるものです。

普段から競馬関連のメディアに目を通している人には周知のエピソードも多く物足りないと感じるかもしれませんが、開業前に松田、森、藤沢の各調教師からハードな調教は必要ないことや、これまでの競馬界の常識にとらわれない柔軟性を学んでいくくだりなど、なかなか興味深いです。

なお、本書のなかで、栗東の吉田直弘調教師が角居厩舎出身であることを知りました。

松田先生と同じく厩舎方針を確立した結果、(中略)開業3年目にして、まさに撒いた種から野原一面に花が咲くようにG1を勝つことが出来ました。

思えば、松田先生がそうであったように、自分の信念を曲げずに厩舎経営を続けてきた結果だと思います。私が体験したことは角居厩舎で3年間調教助手として働いてくれた吉田直弘君に継続されそうな勢いです。(P.96-97 強調は引用者)

ラフィアンの募集馬で角居厩舎に入る馬はいなさそうですが、吉田厩舎には2頭が入厩予定です。と思ったら、そのうちの1頭(ロゼットブランシュの06父サッカーボーイ)は既に満口ですか。

小柄な遅生まれの牝馬で「なぜ売れるのだろう?」と思っていたのですが、そういうことでしたか。なるほど、皆さんよく勉強されておられますね…。

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2007年12月 6日 (木)

1997年-世界を変えた金融危機

1997 「1997年-世界を変えた金融危機」(竹森俊平著、朝日新書、720円+税)を読みました。

1997年に起きた日本国内の金融危機、アジア通貨危機の原因やそれに対するIMFやアメリカ財務当局、連銀、日本の財政当局の対応などにつき、「ナイトの不確実性」や不確実性に直面したときの「Max-Min原理」、最後の貸し手としての中央銀行の機能など、経済学の考え方を説明しつつ解説していくスタイルをとっていますが、これが大変わかりやすく書かれています。

物事の考え方、見方を身につけられる新書というのは、ありそうでなかなかありません。この本はそういう意味で大変貴重な一冊です。

久々にいい本にあたりました。お勧めです。

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2007年12月 4日 (火)

日本はなぜ地球の裏側まで援助するのか

Whyjapanprovideai 朝日新書から出たばかりの「日本はなぜ地球の裏側まで援助するのか」(草野厚著、740円+税)を読みました。

タイトルの疑問への答えについては、第1章と第4章、第9章でふれられていますが、分量的に多くはなく、タイトルをみて「なぜ日本は援助をしなければならないか」についてのみ答えを期待する読者は肩透かしをくらうかもしれません。

では本書は読む価値がないかというと決してそんなことはなく、日本のODAをとりまく昨今のアジェンダが包括的にまとめられており、予算の状況、実施体制改革の現状、最近の援助潮流など、新書でこれだけ内容が盛りだくさんであれば、入門編としては十分すぎるほどで、ぜひ多くの人に読んでもらいたい本です。

なお、著者の草野慶応大学教授はよくテレビに出演されていますが、「第8章 経済協力へのさまざまな批判」ではテレビやマスコミで報じられるODAの報道が一面的であったり恣意的であったりすることを指摘しています。報道された問題案件の現地に飛び、事実を確認するくだりは著者の面目躍如といった趣があります。

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2007年11月30日 (金)

徴兵制度のコスト

東国原知事が「徴兵制度はあってしかるべき」と発言したことが波紋を呼んでいるようです。

Economics_of_war 徴兵制度が軍国主義につながるかどうかはさておき、徴兵制度のメリット・デメリットはなんでしょうか。たまたま「戦争の経済学」(ポール・ポースト著、山形裕生訳、バジリコ社、1800円+税)を読んでいて、「第4章 軍の労働」に徴兵制度と志願兵制度の比較があったので簡単にまとめると以下のとおりとなります。

まず、志願兵制度の場合、兵をリクルートするのに民間と競合するため、賃金水準を高くする必要がありますが、徴兵制度では有無を言わさず兵役につかせるわけですから、競争的な賃金を設定する必要はありません。したがって、予算的には徴兵制の方が安上がりになります。

しかしながら、徴兵制の場合、兵隊として適性のある人もない人も採用するため、適性のない人が兵役よりもより適性のある仕事についていたら得られたであろう利益(個人の利益だけでなく社会の利益も含む)は失われます。つまり、機会費用が高くなる。

皆兵制では、医学的な欠格者を除けば全員が従軍しなければならない。非皆兵式の徴兵制では、出自、教育、労働上の条件に応じて兵役免除がていきょうされるということだ。どちらの制度も社会に対して機会費用をもたらす。

皆兵制だと、多くの人は有望な民間の仕事や人生の機会費用をあきらめて兵役につかなくてはならない。こうした例は無数にある。(中略)

非皆兵式の徴兵制は、社会の中の低所得で低教育な恵まれない人々に不利に働きかねない。そういう人たちは徴兵免除の資格を得る能力(たとえば大学進学)がないからだ。さらに、人々は生産的な活動に従事しないで、兵役逃れの活動に精を出すようになる。(中略)

こうした各種の非効率をまとめた結果、経済学者たちは非皆兵式の徴兵制の社会的費用は、予算費用の2倍くらいに達すると推計している。

東国原知事は、批判を受けて今度は徴農制が必要と言っているそうですが、機会費用が発生することに変わりはありません。

若者に「規律を教える」という目的で徴兵制や徴農制をしくというのは、発生する社会的費用に照らして成果が得られるものなのでしょうか。これまでどおり、学校や職場での研修でことたりるように思います。

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2007年11月16日 (金)

マイクロソフトでは出会えなかった天職

労働市場が流動化してきた昨今では事情が変わってきているかもしれませんが、従来、公的セクターと民間セクターの間で人が行き来することは少なかったように思います。

これは日本だけの現象ではないようで、援助関係の国際会議で出席者が「民間セクター開発が大事といいつつ、我々自身は民間セクターからもっとも遠いところにいるんだよね」な