「首都圏の水があぶない 利根川の治水・利水・環境は、いま」(大熊孝、嶋津暉之、吉田正人著、岩波ブックレット706、2007年、480円)。
同僚から「わかりやすくて勉強になる」と勧められて読んだのですが、確かに岩波ブックレットだけあってコンパクトに論点がまとめられていて、勉強になりました。
特に興味深いと思ったのは以下の点。
1.利根川水系の治水・利水は江戸時代から大規模に行われていた。
以前は利根川は東京湾に流れ注いでいたのを、「赤堀川」を開削することによって当時常陸川と呼ばれていた現利根川に流れを変えたこと、江戸川を開削することによって東京湾と鹿島灘を行き来できるようにする北関東の水運を可能としたことは、「まんが日本の歴史」で知ってはいたのですが、大人になってからその事実を改めて知ると、江戸時代ってすごいなと感心します。
2.治水を考える上での計画水量の設定の重要性
利根川の治水というと、民主党政権発足時に話題となった八ッ場ダム建設の継続可否が思い出されます。
八ッ場ダムの件の件については、かつて起きた災害(カスリーン台風)が再来しても大丈夫なように計画をたててそのためのインフラを整備するのは重要、という認識でいました。
この本によれば、カスリーン台風襲来時の最大流量は15,000㎥/秒と推定され、当該流量であれば河川改修で対応可能であるのに、現在利根川水系の治水対策の前提は、カスリーン台風と同じ雨量がふると最大流量は22,000㎥/秒に達するので、河川改修だけでは対応できず上流のダム建設で制御する必要がある、ということになっているそうです。
なぜ22,000㎥/秒かというと、「カスリーン台風当時は上流域で相当量の氾濫が生じたが、それ以降、上流部で河川改修が行われ、開発が進んだので、今同じ雨が降ると、流量が大幅に増加するから」というのが国の説明です。
他方、この本の著者は、そもそもカスリーン台風の時以外で最大流量が1万㎥/秒を超えたのはカスリーン台風2年後のキティ台風のときのみ(1.05万㎥/秒)、当時は、戦争直後で森林の伐採が大々的に行われ、ハゲ山だらけで山の保水能力が低下していたからであって、今はそんなことはない、と主張します。
計画で想定する値が異なれば対策も自ずと変わってくるわけで、さて、どちらの主張が正しいのでしょうか。
私にはどちらの主張にも理があるように思えますが、国の22,000㎥/秒という値は1980年に設定されたということですので、最新の気象データやスーパーコンピュータなどを使ったシミュレーションを行って、まず計画の前提になる最大流量に合意してから、どのような対策がもっともコスト合理性があって環境負荷も少ないか、という議論を進めていくのかな、と思いました。
このほか、首都圏の水使用量は継続的に減っており、水源開発としてのダムや堰は必要ないとか、なぜか国交省の開発は下流域の河川改修より上流のダム建設に偏っているとかの論点があり、確かに為になりました。
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